-12.タチヒダゴケ目
 日本にタチヒダゴケ科Orthotrichaceae1科、10属、32種。

「タチヒダゴケ目の仲間の概略」:
 タチヒダゴケ目の種類の多くは、樹幹上や日当たりの良い岩上など、比較的乾燥した環境下に生育している。樹幹や枝上に丸い緑色の固まりを作っていたり、日当たりのいい岩上に手を広げたほどの大きさで、茶色っぽいマットを作っていたりするもので、葉がヘラ状でやや細長いものは本目の種類かな?と考えてよい。
 帽や朔の形が特徴的で、それらにちなんだ名前がよくつけらている。「タチヒダゴケ」という名は、朔が立っていて、乾くと「縦ひだ」がはっきりするため。

「タチヒダゴケ科の10属」
 多くの属(10属)があるが、どこででも普通に出現して、また比較的種数が多いのは、主に、タチヒダゴケ属Orthotrichum(8種), キンモウゴケ属Ulota(7種), ミノゴケ属Macromitrium(9種)の3属である。他の7属のほとんどは、1属1種。
 ミノゴケ属(Macrocoma)、オオミゴケ属(Drummondia)、モミゴケ属(Schlotheimia)の3属は、ミノゴケ属の種と同じような生え方をする。いずれも割と稀。
 キサゴゴケ属(Hypnodontopsis)、キブネゴケ属(Rachithecium)、カメゴケ属(Amphidium)、カメゴケモドキ属(Zygodon)の4属は、微小で、めったにお目にかかれない。タチヒダゴケ属の中の微小な種とともに、マニアックな採集意欲をそそる仲間ではある。

「タチヒダゴケ目の仲間の特徴」(体のつくり)
 葉はヘラ状。葉身細胞は方形から楕円形(線形にはならない)、乳頭がでるものとでないものがある。
 茎は、立つものとはうものがある。茎がはうものは、立ち上がる短枝を密に付けている。
 タチヒダゴケ目の朔歯は、ホンマゴケ目と同様に2列(基本的にハイゴケ型)だが、肉眼やルーペで見て目立つのは外朔歯だけで、内朔歯は、糸状になるか、ほとんど見えないほどに小さく変化している。乾燥した環境に対応した「退化的」進化と考えられている。
 外朔歯は、短く、ときに、2本の朔歯がくっついて、1本に見えるようになっている(外さく歯が8本に見える)種類がある。内朔歯の基礎膜は低く、また歯突起も細い糸状になっていることが多く、注意して観察する必要がある。

「観察・同定のポイント」
  生育形:
    樹幹に丸い固まりを作って生育(Ulota, Orthotrichum)
        樹幹や岩上にマットを作って生育(Macromitrium)
  茎の伸び方:立つ(Orthotrichum,Ulota)か這うか(Macromitrium)
  枝の出方:密(Macromitrium、Drummondia,Schlotheimia)か、少しか。
  葉が乾いたとき:葉が直立して茎に接着するか(Orthotrichum)、
            巻縮する(Ulota)か。
  葉の形、また、葉の表面に無性芽を持つ種があり、同定の目安になる。
    帽:僧帽状:Rhachitecium, Amphidium, Zygodon
        鐘状:Orthotrichum
        縦ひだ:Macromitrium、Macrocoma      
    頭巾状、ひだも毛も無い:Schlotheimia
 (顕微鏡で)      
   葉の基部葉身細胞の葉縁が分化:Ulota
   気孔(さく壁表面に形成される)が表生か、沈生か:種の区別に重要!

「身近な、分かり易い種」:
 @カラフトキンモウゴケ(Ulota crispa)
  樹幹や枝に丸い固まり。茎は立ち、葉は乾くと巻縮。
  帽には多くの毛(金毛)がでる。 
  葉身細胞に乳頭、葉の基部では、葉縁の細胞が顕著に分化(細胞壁の厚さが縦と横で異なる) 
 @タチヒダゴケ(Orthotrichum consobrinum)
  樹幹や枝に丸い固まり。茎は立ち、葉は乾くと茎に接着(巻かない)。
  気孔は沈生。
 @ミノゴケ(Macromitrium japonicum)
  樹幹や枝に、割と大きな(手のひら大、時にもっと大きい)マットを作る。
  茎がはい、密に、立ち上がる枝を付ける。
  葉は乾くと巻く。葉が開いているとき、葉の先端が少し内側に曲がる。
  帽には多くの毛がでる。